「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ。」
− 村上春樹 (羊をめぐる冒険)−
その日、ゆきさんの代わりに特訓にきたゆきさんの夫であるよしまささんが、テニスコーチであることは知っていたが、佐藤コーチと組んで都市対抗の東京都代表になっていたことを、私は知らなかった。
「なんで打点を落としたの? 」
…繋ぎのボールを打ったのだ。センターに返すだけの。その時、ベースラインの後ろに自分がいたからだ。
「俺が体勢を崩した時。」
「あんなふうに打点を落とされたら、」
「その時間に俺、立て直して打点に入っちゃうよ?」
私は、チャンスが1回では決まらないということを、10回の特訓で学んだのだ。
決まったはずが、返ってくる。
ふだん、打つ練習ばかりをしていると、なかなか気づかないこともある。
特訓というと、サーブとストロークを安定させるために、ひたすら反復練習を、行うものと想像していたが、実戦的な練習ばかりだった。
なにぶん、5年ぶりの公式大会はレベルがオープンであることに加え、3年ぶりに出場する大会前の追い込みだったために、実戦的な練習をしたいという話だった。
よしまささんスペシャル派遣の内容は、理事長がテニスを上手くなっていたため、大会前の追い込みということで、かなり追い込んできた。
大会本番でも、対戦相手のプレッシャーなんて、よしまささんのプレッシャーに比べたら、屁の突っ張りにもなりません(石井慧)。
「ああなった時に打点を落としたら負ける。」
シングルスを1人でやると、学べることが大いにある。
「一般論」を「意見」とすると、理事長は今すごく、個人的な話をしている。
「シコラー」が「一般論」だとすると、「試合」は、個人的だ。
たとえば、こうだ。
翔吾くんがエンジニアとやっている試合動画を見たけど、
4−0までは順調。
5ゲーム目からエンジニアのミスがなくなり、翔吾くんが何もできなくなる展開だ。
4ゲームマッチにしておけば良かった。
それだと、翔吾くんが圧勝できた。
全日本を目指しているシコラーJOPPERが、昔テニスをやっていたテニス自慢のエンジニアに負ける。そんなもんなんだ〜、と、見ていた人は、思っていたと思う。