学校でも会社でも、いつも悩まされるのが人間関係だ。人間関係を壊すのは、大半が感情的な言動だ。誰もが客観的に在りたいと願うが、人とのコミュニケーションの中で、感情に流されてしまうことが多い。
「客観力」は人生において、とても重要な能力だ。客観力が高い人ほど、人生の満足度や仕事の生産性が高く、人生に明確な目標をもって生き生きと暮らしており、ストレスレベルも全体的に低い傾向がある、と科学的に証明されている。
客観力の効力は魅力的だが、自然に誰もが得られるものではない。客観力を邪魔する3つの「思い込み」を誰もが抱えているからだという。
(思い込み1)自分は正確にものごとを見られるほうだ
(思い込み2)自分のことは自分が一番よくわかっている
(思い込み3)自分のことは自分で判断するのが良い
これらの考えを多少でももっている人は、もしかしたら客観力に欠けているのかもしれない。本書によれば、人はたいていのことをゆがんだ視線で見ており(思い込み1の真実)、人は自分のことは10%しか正しく理解しておらず(思い込み2の真実)、自分のことは他人の判断に任せたほうが正確性が高い(思い込み3の真実)からだ。
しかし、ここ数年の研究により、こういった思い込みを抱えがちな人であっても、客観力を保つ方法がわかってきた。それは、「自己省察」と「知的謙遜」を意識することだ。
自己省察=自分の欲望を正しく知り、思い込みにまどわされず真実を見抜く力
知的謙遜=自分の能力を正しく知り、より深い成長をうながすための力
この2つの力は客観力を保つために欠かせないものとして、最近ではGoogleやAmazonなども重視し始めているそうだ。
本書は、これらの力を、哲学者・ソクラテスの言葉になぞらえて説明している。
聞き慣れない「自己省察」は、ソクラテスの言葉に則れば「汝自身を知れ」だ。自分のことをよくわかっていて、自分自身に安心できるような心であれば、客観性を保ちやすい。心理学用語で「セルフコンセプト・クラリティ」が高い、と定義される状態だ。
例えば、自分の仕事が計画どおりに進まず上司から怒られた場合、セルフコンセプト・クラリティが低ければ「自分はやっぱりダメだな…」と落ち込むばかりだが、セルフコンセプト・クラリティが高ければ「自分はお客さんを喜ばせるために仕事をしている」という己のはっきりとした価値観に基づいて「今回はうまくいかなかったが、信じる価値観に従って進むことは間違っていない」と思い直すことができ、大きなストレスを抱えずに済む。
次に「知的謙遜」だが、これはソクラテスの「無知の知」に近い。知的謙遜の大切さは、これがあれば自分が犯した失敗を客観的に捉え、改善点を学べることにある。知的謙遜に乏しければ、同じ失敗を繰り返しやすい。知的謙遜は、知的レベルとは比例しない。知的レベルが高い人であっても、自分のことはかわいい。良いことが起きれば「自分が天才だから」と考え、悪いことが起きれば「他の誰かが愚かだった」「自分が十分なリソースを得られなかった」ことを原因にしやすい。このバイアスは「根本的な帰属の誤り」と呼ばれる。
知的謙遜を身につけるのが難しいのは、これを邪魔する思い込みやバイアスが「根本的な帰属の誤り」以外にいくつもあり、それらに引っかかりやすいからだ。