僕らはとても不完全な存在だし、何から何まで要領よくうまくやることなんて不可能だ。不得意な人には不得意な人のスタイルがあるべきなのだ。
− 村上春樹 −
人は勝つこともあるし、負けることもあります。でもその深みを理解していれば、人はたとえ負けたとしても、傷つきはしません。人はあらゆるものに勝つわけにはいかないんです。人はいつか必ず負けます。大事なのはその深みを理解することなのです。
− 村上春樹 –
レバーの薄切りを注文した。
これは刺し身ではありません。
だから、わたしは、法を犯していない。
ズルもしていない。
レバーの薄切りを焼かないで食べているだけ。
悪いことやズルいことは、何もしていない。
なにしろ全敗したのだ
血の滴るレバーを生々しく食べて血と肉を蓄える
5−5
だとか、
40-40
なんてスコアを何度も見た
焼き肉屋で、テニス談義なんか、してないですよ。
こんな日にひとりになってはいけない。
結果がすべてだからさ。
「ダブルスってごまかしがきくんでしょ? 」
「シングルスはごまかしがきかないんでしょ? 」
「ごまかさなくてエラーい。」
「ダブルスって、どうやってごまかすの? 」
「ダブルスは上手い人と組むと勝てる。」
「おれと○○君が組むと全部やってくれる。」
「ふだんどんな感じなの? 話し、合わなくない? 」
「お互い体育会みたいな感じで、話ししない。うぃっす! おれも、うぃっす! って。」
「へえー。逆に相性いいかもねー。」
「打ち合わせナシか。」
「しても意味ない。」
「おかださん、リターンぶちこんどいてくれたらいいんで! あと僕やりますんで、って。」
「リターンに集中できていいじゃん。」
「正しいおかちゃんの扱い方。」
「それで勝ってるだけ。」
「あたしは1人で負けてるほうがいい。」
「負けたことのない人なんていない。」
「シングルス負けてダブルスごまかしてまでやらんでえーし。」
「ダブルスも真面目にやりたい。」
「俺が教えてやろうか? 」
「あんなセオリー覚えてもしかたない。」
「知らなくていいよ。悪い友達ができる。」
「セオリーはセンターじゃないの? 」
「理事長が5年かけて覚えたんだから。」
「それだけ知ってればいいんじゃないの? 」
「あんまり人前でセオリーとか言わないほうがいいと思う。」
「悪い友達ができる。」
「うーん。テニスの仲間づくりね。」
「人脈ない。おれは親が作った人脈に乗っけてもらっただけだから。」
「昨日テニスオフ行ったべ? 」
「世田谷公園」
「試合前日だからテニスやっておこうかな、って。」
「みんなの知らないところで努力してんだね。」
「できあがってるサークルでダブルスの足りない人数を募集してるオフだった。」
「できあがってるとこは入りにくい。」
「主催者をたまたま知ってて、顔見知りで。」
「どこにでも知り合いがいる(笑)」
「人が集まってるところは苦手。」
「話が合わない。合わせられない。」
「○○君いいじゃん。どーせ話し、合わないんだから。」
「おれのほうが年上。」
「年だけ。」
「20代も30代も同じだろ。」
「50になって急に達観した(笑)」
「おじいちゃん。」
「世の中の人間は全員が自分とは違う人種だということに気づかないと。」
「悟らないと。」
「理事長だけは違う。」
「女だし。」
「かわいいし(笑)」
「テニス上手いし(笑)」
「俺が教えてやろうか? 」
「話し、聞いてもわかんないんだもん。」
「テニススクールむり。」
「性に合わなくてやめちゃった。」
「増田コーチと黒田コーチ、どっちが良かった? 」
「増田コーチは細かい。黒田コーチは激しい。」
「どっちもダメってこと? 」
「どっちも同じ。」
「黒田コーチのほうが安かった。団体レッスンで練習会だったからね。」
「相談したり、教えてもらったりは? 」
「初心者すぎて、聞いてもわからない。」
「ベースラインで振り回されたんでしょ? 」
「他にやることがないじゃん。」
「サーブもムリ、トスもムリ。」
「ヒッティングって、それ、返せないでしょう? 球出しもしたでしょ? 」
「球出しの球がスマッシュ。」
「手加減してそれか? 」
「だから激しいって言ったじゃん。」
「コスパね〜」
「他の女子も当てて返すだけ、打てるところまで行かない。」
「1年振り回されて。」
「1年ぐらいじゃ全然ムリ。」
「ある日とつぜん打てるようになるよねー。」
「そんな感覚なし。」
「テニスは、楽しいだろ? 」
「負けたから盛り上がるね。」
「おれが負けたのがそんなに楽しいか? 」
「楽しい。」
「ダブルスの試合で勝てないのは自分のせい。」
「がんばってる。」
「理事長狂ってるから」
「メンバーが負けると癒されるんだって。」
「挫折を知らない人と友だちになりたくないし。」
「それもわかるけどな。」
「辻仁成が言ってそーな。」
「村上春樹のほうが言ってそう。」
「毎回同じだと飽きるでしょ。」
「ヒーローもの。」
「飽きるね。」